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2−14 別々の地へ

last update Huling Na-update: 2025-09-20 11:17:13

 シドが書斎に戻ってみると、ニコラスは既に出立の準備が終わっていた。

「ニコラス様、ジェニファー様に『ボニート』へ行くことを伝えてきました。もう準備を始めていると思います」

「そうか、ご苦労だった」

「では、私も荷物の準備をしてまいります」

シドが書斎を出て行こうとすると、ニコラスが引き留めた。

「待て、シド」

「はい。何でしょう」

「お前は視察について来なくていい。代わりにジェニファーと一緒に『ボニート』へ行ってくれ。他の護衛騎士達を連れていく事にする」

「え……? ですが……」

「ジェニファーとジョナサンには他の護衛騎士をつけようと思っていたが……お前が彼女を任せるのに一番信頼出来そうだからな。それにシドはあの地域に詳しいだろう? 何しろ少年時代を一緒に過ごした仲なのだから」

「ニコラス様……よろしいのですか?」

本当のことを言うと、ジェニファーから詳しく話を聞いてみたいと考えていたところだったので、シドにとっては好ましい提案だった。

「ああ、俺が戻るまでの間ジョナサンとジェニファーを頼む。向こうの屋敷には既に連絡はしてあるからな」

「はい、ニコラス様」

「この小切手をジェニファーに自由に使うようにと言って渡しておいてくれ。後のことを頼む」

ニコラスはそれだけ言うと、シドを残して書斎を出て行った――

****

「ジェニファー様。本当にお荷物はこれだけでよろしいのでしょうか?」

ポリーはジェニファーが用意した、たった2つだけのボストンバックを見て首を傾げる。

「ええ、そうなの。……少なくて恥ずかしいけど」

ジェニファーは眠っているジョナサンを抱きながら顔を赤らめる。その姿にポリーは思った。

(確かにジェニファー様の着ている服は、とてもではないけれど侯爵夫人がお召になるような服とは思えないわ……ジェニファー様に充てがわれる予算は無いのかしら……?)

――そのとき。

開かれていた扉からシドが姿を見せた。

「ジェニファー様」

「あ、シド。どうしたの?」

「お部屋の扉が開いていたので、声をかけさせていただいたのですが……中に入ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

「失礼いたします」

ジェニファーに促され、シドは部屋に入ってきた。

「ジェニファー様。俺が一緒に『ボニータ』へ付き添うことになりましたので、よろしくお願いします」

護衛と言えば不安な気持ちにさせてしま
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